天使と野獣
さくらは一度、年上女の自分が言うのには抵抗があったが、
京介に将来の夢を話した。
勿論生活設計の相手は京介を意識しての事だったが。
しかし、その時の京介の反応はあっけなく、
自分が一生をかけて見守ってやるから頑張れ、だった。
その時はまだ子供だからと思ったが…
話の節々に父親との暮らしは出てくるが、
この年頃、思春期の青少年に見られる、
楽しい生活設計の絵が浮かんで来ない。
全く理解し難い時もあるが…
それでも自分も京介が大好きだ。
さくらは、自分と腕を組んでいる頭一つ高い京介の横顔を見た。
「目を引く女性がいると思ったら【さくら】のママではありませんか。
ご一緒にいかがですか。」
その時、京介の隣に高級外車が止まり、後部座席から
きざなメガネをかけた細い狐目の中年男が顔を出し、
さくらを車に誘っている。
京介を全く無視した嫌な態度だ。
「まあ、倉本さん、ありがとうございます。
でも今はこの人と一緒ですので…
またお店にいらしてくださいませ。」
と、さくらは丁寧に、しかしはっきりと断わっている。
二人でいる時は,
京介の事を子ども扱いする時もあるさくらだが、
他人に話す時は一人前の男として扱ってくれる。
もっとも学生服を着た男だから、
年相応の本物の男が見ればどう思うか。
京介はさくらのその言葉を聞き、
相手を無視して,さくらをエスコートして歩き始めた。