天使と野獣
「京介さん、こんな所で今度は何をしているのですか。」
その場を離れた六組の生徒から、
京介の行動を聞いた三組の高橋直道が声をかけてきた。
数時間前に京介が直道の所に来たと言う事は、
既に他のクラスの生徒にも伝わっていた。
それで何となく京介と直道は友達のようだと思われ、
誰かが直道に伝えたようだ。
もちろん、それは直道にとっては光栄な事、
早速京介のところに飛んで来たと言う次第だ。
「お前か。ちょうどいい、
あそこに座っている二人の名前は何と言うのだ。」
と、京介は自分が目をつけた二人の名前を直道に尋ねた。
「あの二人なら桜本と外岡です。」
「どんな奴だ。」
「真面目でおとなしいですよ。
いつも一緒に塾通いをしているようです。
もっともその割に成績は並です。
三学期の実力テストで僕の隣にいましたから… 」
と、直道は満足気にウフッ、と言う笑みを浮かべ、
その愛嬌のある狸目で京介を見た。
その実力テストだけは成績結果を上位200番までは張り出され、
辛うじて直道も引っかかっていた。
要するに、
ろくに勉強しなかった直道と同じ成績だったと言う事だ。
桜本琢磨は中肉中背、
さして特長の無いのっぺりとした感じだ。
外岡陽輔は度のきつそうな眼鏡をかけた
長身痩躯の貧素な様相、
眼鏡越しに見つめるその目はいい気分ではない。
そして、京介は二人の名前を聞くとその場を離れた。
残された直道は, いつもの事だと、
何も無かったように自分の教室へ戻った。