天使と野獣

が、この頃になれば、
この東条京介の自分に対する口調にも慣れて来たのか、
変わったところは確かにあるが憎めない奴だ、とも思えている高木だ。



「もう守る所は決めている。
ただ、金をくれとは言い辛いから… 
他から稼がねばならないが… 」



それを考えるのは卒業式が終わってから、
と言わんばかりにそれまでの口調より曖昧な言い方をした。



「何を分らん事を言っているのだ。
親父さんは医者だろう。何か言っていないのか。」


「別に… 俺の好きにしたらいい、と言っている。」


「わかった。条件を出そう。
条件は… 東京大学の医学部を受験して合格する事、

ただし、もうセンター試験が迫っているから,
今日中にこの申し込み用紙に書き込んで、明日学校へ持って来い。

普通は自分で出すものだがお前の場合は、俺が目を通してから出しておく。
どうだ、この条件で。」




周りの教師達は、それまでは無関心な振りをして聞き耳を立てていたが、
いきなり鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして二人を見た。

東京大学… 医学部… 日本で一番と言われている大学ではないか。

無理だ、絶対に無理だ。

大体この学校から東大どころか、
六大学と言われている大学に入った生徒などいないではないか。


それどころかどんな大学へでも、
と毎年入れそうな大学を必死に探してやっと、というのが現状と言うのに… 

よくもまあそんな事を、と今度は高木を、
軽蔑したような目つきで見ている教師も出て来た。 

そうか、高木は職員室まで来て、まるで教師を脅迫するような口調で応じた東条京介に、無理を承知であんな条件を出したのだ。


しかし… 来年、こんな生徒が自分のクラスに来るような事になれば、
それこそ一大事だ。 と、そこまで考える教師もいる。

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