天使と野獣

京介は安本の涙に驚き、
成り行きで父を思い出し、
もっともらしい言葉を出してしまったが… 

その言葉で安本は気分が変わったようだ。


ゆっくりとポケットからハンカチを出して涙を拭き、
恥かしそうな顔をしてメガネをかけた。

そして真っ直ぐに京介を見ている。



「あの二年生を知っているのかい。」



吉岡の事だ。



「ああ、落ちたのが俺の傍、
そしてあいつの父親は父と同じ病院で働いている人。

サッカー部のキャプテンで成績は中の上、
自殺をする理由など何も無い。

それなのに何故か屋上から落下。
遺体には殴られた痕もあった。

となれば… 何者かが吉岡を殴ってから突き落とした。
殺されたと言う事だ。

だから俺は犯人探しを始めた。
別に誰に頼まれたからと言うわけではないが… 」


「東条… もしかしてその犯人は… 」



何か心当たりがあるのか、
安本はそんな言葉を出した。



「お前、誰だと思う。」



安本は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔は
すぐには治らないが、

それでも心の整理がついたような顔、

真剣そのものの気持を込めて… 

京介が喜ぶ情報を示唆してくれた。



「あの日… 僕はまた増田を呼び出して
ここに来ていた。

その時に二年生のあいつが
怒ったような顔をして増田を呼び出し… 

僕が見ていたら
あの一年生の女子と一緒に
向こうの階段から屋上へ行った。

だけど騒ぎが起こって、
増田を見たら教室で渡辺と話していたから
関係ないと思っていた。まさか… 」



安本がそんな光景を見ていたとは… 

やはり動いてみるものだ、
と京介は満足している。



「俺はそのまさかだと思う。

何も証拠は無いが、奴は限りなく怪しい。
そうか、吉岡が増田を… そいつは良い情報だ。

俺は今朝死んでいた桜本と外岡の二人が
何か知っていると思っていたが… 」


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