天使と野獣
しかし、何故、
あの1年の女まで一緒に行ったのだ。
男なら、そんな危ない話に女を連れて行くか。
吉岡が教室で桜本か外岡のチーズを拾い、
訳を聞き、男っ気を出して、
増田を呼び出した、というところまでは分かるが…
あの女の存在の意味が分からない。
どこかの病院に入院しているらしいが…
屋上で俺の腕の中で…
あの怯え方も尋常ではなかった。
あの時はただショックが大きかった、と思ったが…
ますます様態が悪くなっている、と言う事は、
彼女がキーか。
彼女がチーズを… いや、それはないだろう。
そんなことを考えていた京介、
いきなり自分を見つめている安本の視線が飛び込んで来た。
こいつ、まだいたのか。
京介は、安本の肩に両手を置き真っ直ぐに顔を見つめた。
女の事は、後でゆっくり考えよう。
まずはこいつだ。
良い情報を知らせてくれたから、少しは…
京介の頭では、そうなっていた。
ギブ・アンド・テイクの精神を忘れてはならない。
友達でもないのに良い情報をもたらしてくれた奴、
相当の借は返さねばならない。
「安本、心配するな。
お前は自分が考えるほど悪い状態ではない。
こうして見ても、お前の表情に衰えは無い、
目も生きている。
チーズに頼っているから心が弱くなっているだけだ。
俺は専門医ではないから絶対とは言わないが、
気持ちを切り替えろ。
まあ、時期が時期だから余計に気になるだろうが、
人生は長い。 最悪一年ぐらい遅れても、
お前ならすぐに取り戻せる。
とにかく今晩、父に相談するが…
もうチーズなど口にするなよ。
それが第一歩だ。」
その時の京介、
まさに心療内科の医師にでもなったような口ぶりで
安本を見つめ、
落ち着いて話している。
それは… 温かみがあり説得力がある。
担任と話している時とは大違いだ。