千恵の森
そうだ、彼女はほんの赤ん坊だったのだ俺が金を得るために、自分のお粗末な誇りのために殺してしまったのは・・・。
ふと、今せっせと掘り進めている土の奥で、まだ腐りきっていない肉や髪をぶら下げたデロレスが、所々骨になっている腕をのばして、彼の手がその恐ろしい姿を覆い隠している最後の土を退かした瞬間に、彼を彼女たちの住む世界へ引きずり込んでやろうと、にやつきながら待ち受けているに違いないと閃いた。そして、閃きはたちまち確信に変わった。彼の手は、大きく震えてもう一救いの土をかき出すことも出来なくなった。きっと彼女のか細い腕は、ぞっとするほどの力で俺の足首を掴んでぐいぐいひっぱるだろうな。もう恐怖で指一本動かない。彼は心の中で必死に叫ぶ。
ごめんよ、デロレス。俺が望んでやったんじゃないんだお前の母さんが金をやるからお前を殺せと、俺に言ったんだ。すっげえ金だったんだ、聞いたこともないぐらいにさ。だから俺は暫くの間あのくそ爺にでかい顔が出来たんだよ、ありがとうデロレス。
自己嫌悪。罪悪感。後悔。雑多な感情の波が彼を激しく揺さぶる。なにを考えているんだ?馬鹿め!お前は、デロレスを殺すどころか、自分の命もあの子にやるべきだったんだ。
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