千恵の森
しかし、チコはあの不気味な旋律から逃れられなかった。いつも寝起きしている部屋は、人形を埋めた裏庭と扉で隔てられているのに、れいのオルゴールの音色ははっきりと、まるで同じ部屋の中で鳴っているかのように聞こえて着た。そこで、気味が悪いのを堪えて、人形が元々置かれていた、玄関ホールで眠ることにした。大分長いことここにじっとして、不気味なオルゴールの鳴り止むのを待ってみたが、とても終わりが有るとは思えなくなってきたのだ。
立ち上がろうとしたが、うまく足に力が入らない。体全体にずっしりとなにかが覆い被さっている感じで、身動きが取れない。彼は、不意に恐怖に捕らわれた。何かがおれをここに縛り付けている。ここから逃げられないように。そして誰かが、やってくるぞ、罠にかかったびくびくウサギをひっ捕まえて血の滴るいきづくりにしてやろうと、丸い闇の奥で、吸血鬼たちやミーラたちやデロレスと囲む暖かな食卓のメインとして並べてやろうと。

チコははっと我に帰った。オルゴールの音が、すこしずつ大きくなってきている。今も、少しずつ少しずつ・・・

頭のすぐ上で、聞き覚えの有る音がする。この音、このリズムこれは巣手で土を掘っている時の音だ。これらは皆俺の空耳なのか?
< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop