疵痕(きずあと)
鏑木と呼ばれた男は、俺のことなんか全然覚えていないらしかった。かく言う俺もこれと言った覚えが……実はある。
中学の時、文化祭に出す映画をビデオで撮っていた時、自分の気に入るまで何度も何度も、なんっども!
取り直しを強要したやつだ。
おかげでおしまいの方は紫の空に一番星が光る夕方にまで役者は時間を拘束された。
宵の星を見ながら帰宅したのを覚えている。
ちなみに俺は生徒に説教を垂れる先生役のひとり。
悪役だった。後でひどい目に合う。
ま、そこはカットされてしまったのだけど。