疵痕(きずあと)


 速乾剤はよく効いてて全体的に崩れはない。


 ただ、イーゼルの方が無事では済まなかった。


 新品の雑巾を犠牲にして咄嗟の洗筆液でもってイーゼルを磨いていると、後から見計らったように、どやどやと生徒が入ってくる。


「おっ、なに、どーしたの? 掃除夫に転職? あそー、こっちのも磨いといてくれる?助かるわ。ご苦労さん」


 そう言って、奴は重なり合って立てかけられたイーゼルを笑いながら突き崩した。
 





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