疵痕(きずあと)


「妹の、涙に比べたら、お前の、命など」


 いつもとは違う、鼻にかかった言い方ではなく、しゃがれた声でささやく。


 驚く俺を放っておいて、積み重なっている錆の浮いたイーゼルの山に足を乗せて、どこ吹く風。


「おまえ……なに歯アくいしばってんだよ。俺の命が妹の涙の代償と言うなら聞かせろ。一体何に耐えてるんだ。おまえの本音は」


 奴は再び唾棄した。


 そして足を退けると表へ向かって歩き始めた。


「今日はこれぐらいにしといてやるよ。殺人はリスクがある感じだし、お前もこれぐらいじゃ死ぬどころか、思い出しもしなさそうだ」






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