Love Slave
壇上に立つ。刹那、私は凍りついた。


この体育館には全校生徒が集まっている。さすが県内一のジャンボ学校、生徒数が半端じゃない。二億六千万の瞳が私に向けられているといっても過言じゃないくらい。


困惑するものの、一礼をして前に立つ。


「1年C組の……」


私の声が響かない。よく見ると、マイクのスイッチがOFFになっていた。慌ててスイッチを入れる。またクスクス笑われてしまった。全身が発火したようになる。


(もう、さっさと終わらせてしまおう)


一刻も早く、ここから離れたかった。みんな私のことを見ている。視線が痛い。瞳だけで何個ぐらいあるのだろう、まるでマシンガンみたいだ。私の身体が穴だらけになり、卒倒してしまいそうになる。


気を取り直した、その時。


(あれ……最初に何言うんだっけ?)


何ということだ。あれだけ暗唱して脳味噌の中に詰め込んだはずのスピーチの内容が緊張のあまり吹っ飛んでしまったらしい。


私は右ポケットに入れておいた原稿用紙に触れた。


ビリビリッ、とポケット中で鈍い音が反響する。


「あっ……」


間抜けな声がマイクに拾われる。

勢いよく取り出したせいで、原稿用紙は真っ二つに破れてしまった。しかも、ずっと握りしめていたために手汗で文字が霞んでしまっていた。

正直、読めなくなっている。


いつまでもスピーチが始まらないので、生徒たちが騒ぎ出す。私に指差してくる奴もいる。


顔の血の気が引いていく。足許はガクガク。しまいには口唇までも痙攣を起こし始めた。


はぁはぁ、と過呼吸まで起こしそうになる。パニックで失神しそうだ。


目の前の全校生徒達が二重三重に見え、グラグラと眩暈さえ襲い掛かってくる。


もう、スピーチどころではなくなってしまった。


グラリ、と私の身体が後ろに傾くのは分かった。けど、立て直せない。


(もう……だ……め……)


重力に従って、倒れてしまう。
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