Love Slave
すると、少し下を向きながら言った。


「上手く音符が作れなかったから」


「へ?」


「みんな言うんです。昔から神童だって言われ続けてきたけど、僕としては未熟者で、周りの眼が恐かったんです」


アルは苦痛だった。いくら賞を取っても、「天才だから当然」とか「世界的って言われてるけど、そんな実力あるの?」とか言われていた。


フルートにもその影響が出た。自分の思い通りの音が出せない。自分は何処へ向かっているのか、方向音痴になっていた。



ある日、ほとんど人気のない裏庭でフルートの練習をしている時のことだった。


「やかましい」


ピタッと演奏を止めた。向かいのベンチで、顔に雑誌を被せて眠っていたのは会長だった。
アルは一礼をした。


「ごめんなさい、生徒会長が寝ているとはつゆ知らず・・・・・」


「そうじゃねぇ」


「は・・・・?」


「お前が鳴らしてる音総てが雑音なんだよ。それじゃあ、やつあたりで出してる音じゃないか」


アルは何も言い返せなかった。方向が定まらずに、音が一定しない。
それを会長は見事に言い当てた。


「ほらよ!」


「こ、これは?」


会長が投げ渡してきたのは生徒会書記ノートだった。


「ムシャクシャするんだったら、そのノートに殴り書きでもしてみないか」



「・・・・それが、きっかけだったんです」


へぇ、会長がそんな事を・・・・。随分カッコいいことするじゃないか。


(案外、良い人とか思ったりして・・・・)


「あの・・・・『もとかさん』とお呼びしてもいいですか?」


「いいよ別に・・・・・」


初めてまともに呼ばれたかも。奴隷だの、撫子ちゃんだの、もなかだの呼ばれ続けてたもんな。


「今日、付き合ってくれたお礼と言ってはなんなのですが・・・・」


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