Love Slave
♪~♪~♪~


視聴覚室から最大音量で聴こえる。


「アル君!!」


勢いよく教室に入ると、アル君は痛々しい包帯が巻かれているにも関わらず、フルートを操っていた。


「もとかさん・・・・」


「やっと見つけた・・・・」


ぜえぜえと息切れしながら入ってきた私を見て眼が点になっていた。


「・・・・すごい格好ですね」


開口一番がそれだった。不思議の国のアリスの格好で亀甲縛り。滑稽と言われればそれまでだが。


「この格好についての説明については後!それより、何やってんのよ」


「大和さんにやられたんですか、それ」


「話を逸らさないで。何で、何でなの?そんな怪我してるのに・・・・」


椚先輩から全治10日ほどだと言われたばかりなのに。


「もとかさん、言ってくれたじゃないですか」


「え・・・・?」


「一生懸命練習したのに棄権するなんてって」


「言ったけどさ・・・・」


その時、亀甲縛りがハラリと解けた。動き回ったせいなのか、紐が緩んでいたらしい。


アル君が再びフルートを持ち上げ、吹こうとした瞬間、私は包帯を巻かれていない部分をがっちり掴んだ。


「もとかさん?」


「・・・・・・っ」


何て言っていいのか分からない。吹いてほしいのはやまやまだけど、こんな怪我で無理をしてほしくない。


すると、アル君は穏やかに笑った。そして、ポケットから何かを取り出す。


「もとかさん、これ、受け取ってくれます?」
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