Love Slave
「私、トイレ行ってくるね」


授業が終わった後、近江さんはトイレに寄ると言って私と別れる。
私は体育館の入り口前で待つことにした。


壁に寄りかかり、空に浮かぶ綿雲を見つめる。
こんなゆったりと学校を過ごしたのはいつだっただろうか。


(初めてって言っていいかも……高校の友達って)


同じクラスの人ではなく、隣のクラスの人。でも、そんなの関係ない。
友達とは言えないかもしれないけど、同性の知り合いができた。


生徒会に属しているというだけでクラスから孤立している身としては、それだけで嬉しくなる。


「えへへへ」


「なーに顔を緩ませてるんだ?」


身体に電流が走る。春になったというのに悪寒がする。
青ざめながら振り向くと、会長がカッコよく(?)スプリングコートを着こなしながら立っていた。


生徒会役員は私服登校可というのは知っているが、それにしても目立つ。
これではヤクザのドンだ。


「か、か、会長!?」


「何だその反応は。お前こそ、独りで何やってたんだ。はっはーん、さては俺を待ち伏せして……」


「違います!!」


これはもう全否定。本当のことだから。
というか、何その自惚れ発言!


「会長こそ、何でここに? 進学コースって校舎違うんじゃ……」


「んー、別にただの見回り兼散歩だよ。それよか、俺の質問はどうした?」


「た、ただ人待ってるだけで……」


「ふーん」


私との距離がどんどん縮まっていく。心拍数がやばい。


「何で近づいてくるんですか!?」


「いいだろ、俺とお前の仲なんだからさ♪」


主人と奴隷の関係ってことか。それでこのまま……。
妄想が膨らみ、私の脳内は大パニックを起こす。


「きゃー、会長!!」


後ろで女の子達がラブコールを送っていた。会長は笑顔で優しく手を振る。……切り替えが早すぎる。でも、助かった。


「俺はもう行くよ。……警戒を怠るなよ」


「え……」


会長が私から離れた後、近江さんが出てきた。
目が合うと、血相を変えて駆け寄ってくる。


「ねぇ、今会長とか言ってなかった? ここにいたの」


「う、うん」


「あー、惜しい。折角会えるチャンスだったのに」


近江さんは心底悔しそうに唇を噛む。


「いいな、会長と接せられて」


羨望の眼差しを向けられ、私の視線は宙を彷徨う。


私としては最後の言葉が気懸かりだ。朝にも意味深な言葉を発していたことを思い出す。
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