Love Slave
「くしゅんっ」


身体が冷えてきた。とりあえず、制服に着替えてしまおう。
教室に戻ると、誰もいなくなっていた。今日は新入生歓迎会が改めて行われる。みんな移動してしまったのだ。


(早く着替えないと……)


しかし、体育の前に上着は専用の袋に、ブラウスとスカートはジャージ袋に入れ、机の横のフックに掛けておいたはずだった。


それが忽然と消えている。


「ないないないない!!」


どこにもない。持ち歩いた記憶なんてない。確かに袋に入れてフックに掛けておいたはずなのに。


(もしかして、チャックが開けっ放しになってたのは……)


誰かが荒らして、制服を持ち去ったとしか考えられない。


「はくしゅんっ!!」


くしゃみが激しさを増す。寒気が出てきて、さらに鼻汁が溢れ出す。こんな顔で外には出られない、駅前で配られていたティッシュで鼻を拭きながら途方に暮れる。

呆然とする中、この冷えきった体を何とかしようと保健室へ向かうことにした。あそこならタオルを貸してくれる。




「失礼します」


ドアを開けると、暖房が点いてて暖かい。奥から保険の先生が出てきた。結構年配の方で、お母さんって感じがする。


「あら、どうしたの? ずぶ濡れじゃない!」


「はい……。ちょっと水を被ってしまって、タオル貸してくれませんか?」


しどろもどろに説明すると、先生は躊躇なくすぐに用意してくれた。
髪や腕や足、下着の中まで全身を拭う。


「何だか具合が悪そうね、大丈夫?」


「い、いえ、大丈夫です」


制服を盗難されたなんて言える訳がない。原因は生徒会に入ったことによる嫉妬なんて。
洗面台の鏡を見ると、私の顔色は青白くなっていた。心配されるのも無理はない。


でも、これからどうしよう。ちゃんと担任に言えば済む問題か?


「念のため、名簿に名前書いてね」


私はボールペンを渡されて、名前を書く。「1年C組 早乙女」と書いた瞬間、先生が「ああっ」と声を漏らした。


「貴女が早乙女さんね! 生徒会執行部初の女性っていう……」


気が付くと、先生の黒めに煌めきが浮かんでいる。どうやら、先生も生徒会に憧れを抱いているようだ。


そうです、と言う前に今度は私が「あーっ!!」と声を上げた。
しまった、昼休みに生徒会が集まりがあることをすっかり忘れていた。
< 52 / 281 >

この作品をシェア

pagetop