Love Slave
結局のところ、身体は大して拭けなかった。
生乾きで気持ちが悪いが、気にしてる暇はない。時間は1時を回っている、急がなければ。


「すみません、遅刻しました!!」


昨日と同じ第一会議室へ行くと、中央の机には大量の資料が置いてあって、慌ただしく作業していた。
メンバーは揃っているものの、やはり、会長の姿はない。


ちょうどドア側に長身でツンツン頭の椚先輩が立っていてビクッと身震いする。


「……連絡してあったはずだ」


「ごめんなさい、ちょっと……」


「大丈夫だよ、まだそんなに作業進んでないし」


すかさず副会長がフォローしてくれた。椚先輩は何も言わずに資料の束を机に置き、パソコンの作業をし始めた。
寡黙以前に恐怖感しか湧き立ってこない。


「じゃあ、これサイズ別に裁断してくれる? 向こうに道具があるから」


様々な事項が書かれている。これをサイズ別に分けるということか。
副会長もパソコンの席につく。チラッとディスプレイを覗き見ると、グラフを作成しているらしい。


少し奥に裁断機があった。算数のボードみたいなのに鋭い刃。
印刷室とかで見たことあるけど、使った経験はない。多分、メモリに合わせて裁断する。


(まずはこうやって……)


A4サイズに合わせて、ガシャンと勢いよく刃を下ろす。


「いたっ」


指に刃がかすった。皮は剥けてしまったが、血は出てない。でも、紙は斜めに曲がってしまった。これでは使えない。


「怪我したんですか?」


後ろからにゅっと等々力先輩が顔を出した。怪我はしていないと伝えると、先輩は用紙をじーっと見つめた。


「それ、10枚一気に切れますよ。一枚一枚やってたら遅くなっちゃいます」


「そうですか……」


初めて扱うから分からない。等々力先輩は私を払い除けて、裁断の作業をし始める。
私がやると、紙の無駄になるとでも思ったのだろうか。


すっかり手持ち無沙汰になってしまう。他のメンバーは仕事がたっぷりあるのに、私だけ手ぶら。
このまま突っ立ってても仕方がないので副会長に仕事はないかと尋ねようと移動する。


「え?」


無数にあるコードに足が引っ掛かる。まるで下手くそなあやとりに足を取られたみたいに身動きが取れず、されるがままになってしまう。
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