ボクがキミをスキな理由【短編集】
甘く囁くセクシーヴォイス
しっとりと柔らかい唇から紡ぎだされる、愛の言葉
そうじゃないのに
そうじゃないとわかっているのに、この歌はアイツの為に歌っているんじゃないかと思えてならない。
俺なんかじゃ相手にならない
だって知らない
こんな大人な空間も
大人同士の落ち着いた愛も語らいも
俺は何にも知らない。
ウィスパーノットの歌詞を聴くたびに、敗北感に心の中が打ちひしがれる。
――あかん…!!もう限界や!!!!
これ以上アンナの歌を聞きたくない!!
苦しい
苦しい
逃げ出したい
つらくて醜い感情しか湧き出さない
この場所から消えてなくなってしまいたい
その思いに心の中が蝕まれて、俺は逃げるようにエスプレッシーヴォの出口へと向かった。
見たくない
あんなふうに見つめあう2人をこれ以上見たくない!!
苦しくて、苦しくて
今すぐにも泣き出しそうな気持ちを抱えながら、扉に手をかけると
「逃げるのかい?レオくん。」
俺の手をしわくちゃで暖かい手がゆっくりと覆う。