ボクがキミをスキな理由【短編集】
「マスター……。」
俺が顔を上げると
そこには優しい初老の男性
club:espressivoのマスターの姿があった。
背中から聞こえるアンナの歌声
今にも泣き出しそうな、情けない顔をした俺
2人を見比べてフフッと笑うと
「ココで逃げたらキミは本当にアンナを失ってしまうかもしれないよ?」
そう言って、マスターは俺の頭をポンポンと叩く。
そしてゆっくりと
ドアノブにかけた俺の手をほどくと
「オトコにはね?
逃げちゃいけないときがある。
今はつらいかもしれないけれど、今ココで逃げたらきっと君は、近い将来に死ぬほど後悔するハメになる。
つらいかもしれないけれど今を踏ん張りなさい。」
マスターは俺を諭すように優しく厳しい声でそう言った。
「でも……!!」
これ以上この場にいるのは、ムリや!!
今でさえココロが痛くて痛くて
破裂しそうなほど苦しいのに
これ以上耐えることなんて出来そうにない。
あの2人の姿をこれ以上見たら
俺の心が壊れてしまう
半泣きになりそうになりながら
うっすらと目の前が涙の膜で覆われそうになりながら、マスターに訴えると
「しょうがないね…
こっちに来なさい。」
マスターは俺の手を引っ張って、従業員用の控え室へと連れて行った。