汝、風を斬れ

「死ね」

 振り降ろされた刀を、駆け付けたセントが間一髪受け止め、跳ね返す。
「何!?」
 セントはジンを縛っていた太いロープを切る。
「ありがとう、セント」
「ジン、今の話は……この男……」
「この男」を見る。ジンと同じ、月明かりの夜の闇の色をした髪と蒼い瞳。どことなく似ている面立ち。体つきはジンよりはしっかりしている。と言ってもやはり細い。細身の刀を鞘に戻した。

「レン=シュトゥーヘン」
 シュトゥーヘン。
 話し手はその本人に変わる。
「本名はうんざりするほど長い。後で教えてやろうか。欠伸が三つは出るから」
「シュトゥーヘンって……セリスの南東にある」
 反乱が起こった時、三人が亡命する先とした国だ。
「シュトゥーヘン国の第二王子だ」
 第二? とセントはジンの方を見たが、視線を外された。
「そこにいる、ジン=シュトゥーヘンの弟だよ。緑の。お前が例の裏王家の末裔だろ。お前のお陰で計画は失敗だ」
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