汝、風を斬れ
キュアはそっとジンの手を取った。
「シュトゥーヘン王はあなたを諦めていなかった……だからお兄様だけが受けるべき講習の席に私もいたのね。いつも私の傍にいたジンに、王子としての自覚を忘れさせないために。ねぇ、ジン」
「はい」
「王子になるの?」
ジンはふと、セントを見た。彼の父親の処刑日は刻々と迫っている。「父さんの命日が俺の命日だ」。セントは確かに言っていた。そして同じ口から、キュアへの愛情を聞いた。
弟レンの蛮行は真実らしい。今は大分治まってはいるが、その奇行がいつ再発するかはわからない。そして自分は治世者としての一通りの知恵を持った。国へ戻れば自分は確実に王位継承者であり、彼女が生まれたときからの約束で、キュアは自分の婚約者となる。
ジンはそっと手を引き、そのまま手を首筋に当ててそこに掛けられている紐を手繰った。銀製のペンダントが姿を現す。海を渡る馬の紋様は、シュトゥーヘンの象徴だ。
護るだけだ、欲しいと思ってはいけない。
その言葉を忘れた日はない。
何も言わないジンを見つめるために、セントはゆっくりと瞼を開けた。