汝、風を斬れ


 ヴェルズ・ソーザは牢の小さな窓から外を見た。雀が番いで飛んで行く。空は青く、高い。
 昨日、サラが尋ねて来た。そのことを思い出していた。

 何年振りだろう。明るい面会所、すっかり大人になった娘の腕の中で、小さな命がすやすやと眠っていた。

「ハンナ」
 サラは小さな命に声を掛けた。起きない。かわいらしく頭を飾る髪は、サラと同じ緑色。
「ハンナ……?」
 ヴェルズはその名を繰り返した。サラが頷く。ハンナ――サラの母親とそっくりな顔で。
「ハンナ……」
 思わず差し出した手を引く。警護の二人は目で会話し、一人がヴェルズを向いてゆっくりと頷いた。
 鎖で自由が制限された手に、柔らかく温かい感触。祖母の名前を受け継いだ赤子は、軽くて重い。
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