汝、風を斬れ


 コン、コン。

 小さなノックだが、夜の静寂にはよく聞こえる。セントはアンクスを椅子に立てかけ、ドアを開けた。
「……」
 その人は深い色の大きな布を頭に被っている。そっとセントはその布を引いた。
 露になった淡い青色の髪。
「姫様……」
 うつむいているので表情はわからない。
「どうしてこんなところに……」
「あなたと話がしたくて」
 ただ、その声は震えている。

 案内された部屋は広くない。ベッドを二つ置いたら塞がってしまう程である。一つだけの椅子にはアンクスがあり、背もたれには刀を拭くための軟らかい布が掛かっている。
 キュアは促されて、ベッドに座った。自分が使っている物とは違い、硬く、薄い。
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