汝、風を斬れ
夜が明けた。
自分の腕の中で眠るキュアをセントは見つめていた。一睡もせずに見つめていた。
やがてベッドを出て、身支度を整える。キュアを抱えて、ドアを開けた。廊下には誰もいない。
「よう」
彼、以外。
「きつかったろ。廊下で夜明かしってのは」
「……朝は、おはようと挨拶するものだ」
キュアをジンに渡す。キュアの体に、頭に被っていた布をかけた。
セントとジンはキュアの顔を見る。
「本当によく眠る方だな」
「ああ」
「ジンも俺も、姫様との出会いは寝顔か」
「そうだな」
「で、俺は寝顔でさよならだ、悪いことしたな、俺のベッドなんざ寝心地悪かったろうに」
「姫が満足なら。ご自身も覚悟の上だ」
「覚悟……ね。お前は王子に戻るんだろ? 俺が死んだ後だなんて、狡賢い奴だな」
「お見通しか。かなわないな、セントには」
「ジン、」
セントは、ジンの首を腕で抱えるように寄せた。ジンはキュアを片手で抱き直すと、空いた手をセントの背中に回した。二人の王子は固く抱擁した。
「頼んだぞ」
「ああ」