汝、風を斬れ
「…セント」
はっとしてキュアは目を開けた。カーテンの向こうはうっすらと明るい。髪を撫でる手の存在。
「ジン…」
ジンも笑っている。とても悲しそうに。
「セントはどんな顔をしていましたか?」
ジンは知っている。キュアの夢の中にセントが現れることを。
キュアは寝返りをうって、ジンに背中を向けた。
ジンは静かにベッドを出た。着替える衣擦れの音が高く響く。
「出掛けませんか」
頭まで上掛けを引っ張っているキュアの傍に腰を掛けて、ぽん、とキュアに手を乗せて喋る。赤子をあやす様子に似ているかもしれない。
「どこに?」
「あなたに見せたいものがあるんです」
昨夜の予告。
「部屋の外で待っています」
手は離れて、ジンの座っていた重みも消えた。ドアが開いて閉まる音がして、キュアはゆっくりと体を起こした。
不安。
もやもやとこころを取り囲んで、苦しくて、切ない。
知らない国、新しい家族。私はどうしてここにいるの?
あなたはもうどこにもいないのに、会いたくなるの。
ドアの向こう、聞こえるはずはないのにキュアが泣いているのが解る。どうすればいい。死んだ人間には勝てないんだ……セント。