汝、風を斬れ
しばらくして、ドアがゆっくりと開いた。キュアは部屋を出る。
「ごめんなさい…遅くなって」
「いえ」
お互いの目を見ることができない。
「こちらです」
ジンは前に立って歩き出した。
角を何度も曲がると、誰にも会わずに城の外に出ることが出来た。少し待つように言われ、キュアは一人、壁際に佇む。空を見上げると、東側は明るく他は暗い。その暗い色はどこかで見たことがある。
ジンが馬を連れて戻って来た。真っ白な馬はすらりとして凛々しい。
「綺麗な馬…」
すっと腕が伸び、鼻筋に触れた。白馬は暴れも怯えもせず、じっと撫でられている。
「わ」
不意にキュアの体が浮いた。ジンが抱き上げて、馬の背中に乗せた。ジンは自分も乗って、キュアの後ろから手綱を握る。
「不安だったら、スーの立て髪を掴んで下さい」
「スー?」
「この馬の名前です」
ジンはスーの腹を優しく蹴った。スーが走り出す。
空はどんどん明るくなる。スーは一定の、遅くはなくしかし心地よい速さで駆ける。キュアの背中とジンの胸、触れているところが温かい。
道が切れた。スーが止まる。
「キュア」
うつらうつらしてしまったキュアは、呼ばれて顔を上げる。息を飲んだ。