汝、風を斬れ
太陽は半分ほど顔を出した。
「ジンの体を借りました。俺の残留魔力です」
ジンの着ていた服にセントの顔。
「二人して俺を呼ぶから、さ」
化けて出ちゃったよ。乾いた砂浜に腰を下ろし、一緒に日の出を見ている。
「私…太陽がこうやって昇ることを知らなかったの」
セリスでは、森の向こうから日は昇る。
「でもジンは何でも知ってるわ」
この国もセリスも。
「狡い」
セントはプと笑った。
「そう、ジンは狡いんだよ」
何がどうなっているかを把握して、自分はどうすれば良いのかを考えて、それを一人でやって、やることはまた正当で。近衛という、それを仕事にしていたし、しかも長くやっていた。
要領の良い人間は時に狡猾だ。決して悪意はないのだが、結果として少し高いところからものを見ている。
「ジンは戸惑ってるんだ」
ジンが戸惑う?顔で聞き返したキュアにセントは続けた。
「今までキュアの影として生きていたのに、これからは前に立たなきゃいけない」
近衛から王子へ。
「ジンの気持ちを考えたこと、ありますか」
なくはない。けれども少ない。
セントはまた、フっと息を吐いた。
「ジンは、自分のそういう狡猾さも、当惑していることも、それはもちろんキュアも困ってることも、全部解ってるんだ」
「…どうしてセントが解るの?どうして私は解らないの?」
「それは、まあ、男の勘と…死人の了見」
「嫌な冗談ね」
目を伏せたキュアの頭に、セントはポンと手を置いた。そのまま抱き寄せて、キュアの肩に頭を乗せる。
「セント」
大きな手、厚い筋肉。懐かしいセントの感触。でもこの人は、幻。
「ジンはさ、頭が良いけど不器用なんだ。キュアのことを一番に考えるから、逆に自分を……」
セントはちら、と太陽を見た。もうすぐ、太陽と海は離れる。
「不器用って言うか、優しいんだよ。キュアのために俺と結ばせようとした」
「……」
「キュア、もう時間だ」
「……うん」
「最後、ジンは人を殺したことがある」
「え」
「何度も何度も自分を……」