汝、風を斬れ
 静かに太陽は海の上にその全体を現した。キュアを抱きしめる腕の、力の入れ方、感覚が変わる。
「ジン…?」
「はい」
「聞いていたの?」
「…セントがあなたに抱き着いた時には、どうにかして追い出してやろうと思いましたが」
 自然に出て行きました。もう集合できるほどの力は残ってない、と私に伝えてから。
 寂しそうに喋るジン。体を寄せたまま、キュアは何も言わないで涙を流す。
「泣いていますね」
「…どうして解るの?」
「私は狡いんですよ」
 自嘲か。
「私はジンのこと全然知らないの」
 抱き合ったままなのは、顔を見たら照れてしまうから。
「もう、十何年も傍にいるのに」

「あなたの気持ちも」
 今ここにいるのは、セントとの約束のため?
「曝すのは…抵抗があると言うよりは、恐いんです」
 キュアは意味が汲めない。
「溢れてしまったものを戻すより、溢れないように抑える方が楽で」
「くどいわ」

 キュアはジンの腕を解いて、向き合う。色んな気持ちがごちゃごちゃして、涙はどこかに引っ込んでしまった。
「私はジンの気持ちを知りたいの」
 ジンは少し口を開いて、それから、耳まで真っ赤になった。
「ジン?」
「…セントの言うことはことごとく当たってる」
 捨てるように呟いたかと思うと、ジンはそのままキュアを砂浜に押し倒した。
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