汝、風を斬れ
「姫!」
ジンが天幕に戻ってきたときには、すでに反乱兵達の姿はなく、ずたずたになった布は王女によって繕われていた。ジンは、鞘に収めたまま手にしていた刀を腰へ戻す。
「姫、お怪我は、大事はありませんか」
そう言いながら、姫の顔や腕を改める。その手を掴み、姫はジンの視線を動かした。
「ジン! セントが……いきなり、た、倒れて」
いる。倒れている。
「襲って来た者達は、セントが……でも、その後に突然……」
ジンはセントの傍に跪くと、その顔の上――鼻と口の辺りに耳を近づけた。息はある。乱れてもいない。この状況下で寝ているとは考えられない。
「生きています。姫、落ち着いて下さい」
ジンは、そう言うと先程摘んできた幾つかの薬草の中から、厚みのある葉を一枚取り出す。それを手で包み込み、何か呪文を唱える。手の中で小さな破裂音がし、葉は粒状になった。生のみどり特有の、鼻を突くにおいが漂う。それをセントの口に入れ、水を飲ませる。