汝、風を斬れ

 ふと、冷たいものが姫とジンの背筋を通った。さっきまでの空気とは全く違う空間がある。ジンはとっさに刀の柄へ手をかけた。

「ヒメヲ」
 硬くて温度のない声がした。
 二人は顔を見合わせ、そしてセントの方を向く。
 輝く緑の髪。その下にあるはずの、森の奥の色をした瞳が、それまでとは全く違う黒を映している。

「コロス」
 俊敏な動きで太刀を掴み、王女を目掛けて振り下ろす。

 ジンは王女を後ろへ引き倒し、その前に出る。
 ザク、とセントの下ろした刀が天幕に敷いた布をさす。
 それを抜く、その瞬間にジンの剣の柄がセントの鳩尾を叩いた。

 呻き声をあげてセントが再び倒れた。
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