汝、風を斬れ
夜が明けた。と言っても、床に就いてからあまり時間は経っていない。ジンは姫の呼吸がいつもと同じリズムを刻んでいるのを確認して、朝食の支度に取り掛かった。
天幕の外は、深い霧の世界だった。近くの川で水を汲んで、沸かす。起きた時には、セントの姿がなかった。しかし姫にも自分にも、何も起こっていない。伝声機からは何も聞こえない。
「おはよう、ジン。いい匂いね」
王女が起きた時には、霧もずいぶん薄くなっていた。火も消えている。
ジンは彼女に気づいて、深く礼をした。
「おはようございます、姫」
城の中では、何人もの人が彼女に礼をした。こんな静かな朝は、初めてだった。