汝、風を斬れ
 セントの耳が、ぴくりと動いた。森の奥の色の目が険しくなる。何も言わずにシャツに腕を通し、上着を着、息を整え、服の前を閉める。ゆっくりと刀を左手に持ち、右の二本の指で大きな円を空中に描く。それは光の輪となり、空中に浮かんだ。
「ジン、天幕を片づけるのにどのくらい時間が要る?」
 ジンは一連のセントの行動に、ようやく合点がいった。

「すぐさ」

 セントは頷くと、円の中心に掌を据え、姫の方へ押す。輪が彼女の体を包む。

「――え?」
 輪は半透明な球体となり、姫を包んだまま空中へ浮かんだ。そして球体は見えなくなる。
「セント? どうなっているの、一体……ジン! ジン!」
 姫は中から球体を叩いて叫ぶが、反応はない。かろうじてセントの背中が見える。自分とは違う、広くて、大きい背中。
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