汝、風を斬れ
 セントは、背後の球体がにわかに熱を帯びたことを感じた。どうやら、自分の「声」は姫に届いて、理解されたらしい。ジンの用意も整った。

「かかれ!」
 この兵士らのリーダーらしき男が言う。安い金属の擦れる音を出しながら、兵達が向かってきた。
 ジンは身を屈めて、天幕を倒し、片付け、身を隠す。
「では、逃げますか」

セントは腰に下げた小袋から、赤い豆粒大の丸薬を取り出す。それを口に入れ、噛み砕いて勢い良く吐き出す。空気に触れたそのかけらは、小規模な爆発を次々と起こし、煙となる。煙幕だ。
 反乱兵がそれで足止めを食らう隙に、セントは高く飛び、咽る者の頭を足場にして大振りの木の枝へ移った。そして逃げる。その後を、見えない球体が追う。
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