汝、風を斬れ
「何を、待っているのですか」
 何となくセントは尋ねた。姫の視線が、悲しそうに落ちる。
「聞こえないかしら、森が泣いているわ」
 セントは森の方へ耳を済ませた。鳥や動物が騒ぐのは解るが、森の泣き声は聞こえない。

「湖も大地も、泣いている。この国は病んでしまったの」
 そう言って、姫はセントを見つめる。

 その瞳を見て、セントは改めて思う。
 この人は王女だ。

「私は生き延びねばなりません。セリスを救うために、確かな光でありたい」
 セントはそっと跪き、その人に頭を垂れた。
「微力ながら、そのお手伝いを」
 姫は口元を結んで頷いた。潤んだ瞳は湖の底の色、神話時代からの治世者の証。
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