汝、風を斬れ

「言葉が過ぎる。身分をわきまえろ、セント」
 ジンは小声で言うが、セントは真っ直ぐに姫を見据える。

「これから何が起きるか、誰にもわからない。どんな場所で、どんな生活を強いられるかわからない。命が惜しいなら食べなさい。」
 力のある眼差しに、姫は負けてしまう。俯いた。鼓動が、速い。

「嫌なら、力ずくでも食べさせます」
 セントの言うことに理はあるので、ジンは顔をしかめながらも何も言わない。姫はスプーンを持ち直し、豆をすくう。口まで運び、食べる。噛む。飲み込む。そしてまた、豆を…。その一連の動作を見て、セントの顔が緩む。静かに語った。

「この舌触りが苦手だ、という人はたくさんいる。けれど、この豆は過去に何度も飢饉を救い、兵の腹を満たした……」
 セリスの軍は、大戦において何度か窮地に追い込まれた。セントの属する隊も例外ではなく、冬の中に何人もの戦友が倒れた。
 目を閉じ、ゆっくりと開く。空気が止まる。森の奥の色の瞳に、虚空が映る。
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