汝、風を斬れ
「今朝は、本当にすまなかった」
「ジン……もう何度も聞いたよ」
「本当に……謝っても謝りきれない」
そう言って、ジンは姫のほうへ目をやる。昨晩と同じ、いつもと同じ寝顔がそこにある。ただ、場所が違うだけ。
「お前を信じなければいけないのに」
「それは有り難い」
茶化すような返事があった。ジンの口元も緩むが、すぐにまた真一文字に結ばれた。
きっと、謝りたいのではなく自らを諫めたいのだ、とジンは頭の奥で理解している。悔しいのだ、姫を守ることが自分の生きる全てであるはずなのに。腰に差してある細身の刀と服の随所に隠されたナイフを確認し、闇に同化する。