汝、風を斬れ
「今の音、ナイフか」
セントは腰のベルトにランプをぶら下げて、人の背丈の三倍はある木に登る。枝の大きく張った木で、上のほうも枝が太い。月が高くて明るいので、ランプは消す。今日はここで夜を明かす。
「腕には自信があったんだが。お前にはかすりもしなかった」
「髪が一本、切れたぜ?」
セントは楽しそうに返す。
この会話に、伝声機が使われているのは言うまでもない。
「大丈夫なのか?」
「体は何ともない。昨夜は何だったんだろうな。俺としたことが」
……そういうことじゃない。
ジンは闇に思う。
それともセントはあの薬のことをわかってて言っているのだろうか。
「もし、再び姫を殺そうとしたら……」
ジンは姫の横顔を見ながら言った。セントは黙る。
「私は、姫を守るために、お前を殺してしまうかもしれない」