汝、風を斬れ
 西大陸の七分の一もの面積を持つ大国、セリス王国。長い歴史を持ち、世界的にも力がある国だ。しかし今、戦闘や国防に従事する兵士が反乱を起こし、城を乗っ取らんとしている。

 混乱と剣戟が続く城の中を、ひたすら暗闇へ走る青年がいた。夜目が利くのか、月明かりだけが細く差し込む廊下を真っ直ぐに駆け抜ける。
 輝く緑色の髪と神秘の森の色の瞳を持つ、背の高い男である。背中に太刀を背負い、右耳に伝声機を装着している。伝声機とは、自分の意思を誰かに伝えるための道具である。戦場で味方と連絡を取り合うために使い、耳飾りのような形をしている。彼が着ている服は樹木の色でも薄闇色でもない。白い軍服だ。
 城の五階、中央階段を抜け、広い廊下を南へ。深紅の地に金の装飾を施した扉の前で、その青年は止まった。まだ下の階の喧騒は遠い。
< 4 / 165 >

この作品をシェア

pagetop