汝、風を斬れ
「ジン、俺は怖いんだ。人を斬ることが、本当は……」
 セントはどんな顔をしているんだろう。ジンはふと思った。
 しかし、それは聞かない。セントが見せた内面の弱さ。そんなことを掘ってどうする。自分だって。

ジンは頭を振り、別の話題を探す。
「城を出るときに鎧だけ砕いたろう。あれは何なんだ?」
「それは風圧を変えたんだ」
セントの声に元気が戻る。
「風圧?」
 意味がわからない。

「俺の刀……」
そう言ってセントは左手を開く。手のひらに幾何学模様が明るく浮かび上がり、次の瞬間には、その手に彼の太刀が握られている。
「アンクスは風を知っている。こいつは、山の岸壁で北風にさらされた鉱石と、荒れた海で何度も洗われた鉱石を、東国のターチェが強い魔方陣張って、ものすごい高温の中で製錬して、打ち上げたんだ」
「ターチェ」
 ジンは懐かしい名前を聞き、思わず口に出した。ジンの刀を打ったのもまた、その老人だ。数年前に他界したと聞いた。
「お前も知ってるのか。すごいな、あの爺さんは」
 セントの話し声は弾んでいる。まるで自分のおもちゃを自慢する子供のように。
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