汝、風を斬れ
狙いを定め、柄を先にしてナイフを投げる。カツンと間の抜けた音がして、どさっと人の倒れる音が続く。ジンは倒れた男の近くへ行き、その額のど真ん中に痣が出来たのを確認する。そして、動かないその身体を野に放った。
「ジン」
「姫」
目を覚ました姫に、声を出さずに言って、ジンは唇の前に人差し指を立てる。
音もなく敵の後ろへ回り、一人ずつ倒していく。
ついに、敵は二人になった。
しかし、一人は他方に引っ張られている。なぜだ。
「隊……長……!」
まだ意識を失っていなかった者が、二人のどちらかに言った。
セントは素早くその兵の近くに寄り、首の後ろを叩く。再び、その男は草に埋もれた。
カラ、とランプの音がセントの背で響いた。自分の前に、自身の影ができる。
「貴様」
野太い男の声だ。セントは刀を持ち直して振り返る。
「な……」
そこにいたのは声の主と、
「んんん!」
布をくわえさせられて声が出ないようになっている。両の手を後ろで縛られた女。体型からして、子を孕んでいる。
緑色の髪、深い緑の瞳。通った鼻に少し吊った大きな目の端整な顔。