汝、風を斬れ
「姉さん……」
セントの顔がにわかに歪んだ。猿ぐつわの向こうで、必死に何かを叫ぶ姉がいる。
「この女を助けたいのなら、姫を連れて投降しろ。セント・ソーザ」
男を睨む。
「そんな眼をするなよ? 大枚はたいて掴んだ情報を頼りに、ほら、折角姉貴を連れてきてやったんだ。これで昇格昇級間違いなし、なあ……」
言いながら男は、右手で女の腰を掴み、左手で女の襟元を引き裂いた。その肩に、汚い髭だらけの顔をうずめる。左手は露わになった乳房を揉む。セントを煽っているのか、いや。
「へっ、いい女だ。胎が出ていなけりゃもっと……」
うひゃひゃ、と気味の悪い笑い声をあげる。涙が女の頬に流れる。
「てめぇ……」
「あぁ?」
セントが男の視界から消える。そして、男に「視界」などなくなる。
男の左側で、セントが血まみれの刀を巨体から引き抜いた。
気を失った妊婦を抱き上げ、天幕へ戻る。戻り際、男に治癒魔法をかけてやった。