汝、風を斬れ
「人を斬るのが怖い、って言ってたな」
明け方近く、ジンがセントに聞いた。
「俺もまだまだ弱いってことだ。怒りで冷静さを失ってしまった」
セントは血を落とした刀と上着をしまう。小さなため息が漏れた。
「弱いってセント、自分より強い人と戦ったことあるのか?」
皮肉ではなく、素直な疑問だ。ジンの質問にセントはいつもの笑顔で答える。
「俺より強い人間がいない訳ないだろ。俺だっていきなりこんなにでかくなったんじゃないぜ?」
「例えば?」
「親父とか」
「親父って言ったって……」
姫は天幕の中、眠っている女性――セントの姉、サラのそばにいた。
そっと、膨らんだ腹に手を当てる。ピクっと小さな命が動いた。
「……姫様?」
はっとして姫は手を引く。サラはゆっくりと体を起こした。
目の前の少女が王族であることは、その髪の色でわかる。少女はこくんと肯いた。
「セント、呼んできます」
姫はそう言って外へ出た。王女にそんなことをさせて、サラは少々心苦しい。
「姉さん」
すぐに弟が来た。きちんと顔をあわせるのは、実に四年ぶりだ。
「大丈夫なのか? その……」
少し、顔に照れの色が映る。サラは優しく微笑んだ。
「自分で助けて何言ってるのよ。ありがとう」