汝、風を斬れ
 ためらわずにその扉を押す。キィと小さく音を立てて、その厚く重い扉は開いた。ここは、王女の部屋である。青年は眉をひそめた。日常として武術の訓練を受ける彼にとっては、この扉は別に何とでもない重さだ。しかし、王女は確か十七歳。王女にはやや重いのでは、と思う。何だ、普段は近衛がいるから問題ないのか。とも思った。
 音もなく、部屋へ入る。扉はその重みでゆっくりと閉じる。やはりそこにも灯りは無く、王女のものと思しき寝息が聞こえる。

 シュンッと何かが彼の頭上をかすった。
 いや「かすった」だけで済んだのは、彼の反応が早かったためである。ドスッと鈍い音がした。壁に刺さっているのは木の柄のナイフで、刃の中程までが壁の中に埋もれていた。

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