汝、風を斬れ


「で、俺達はこの道……」
 言いながら、囲んでいるテーブルの上に広げた地図をなぞる。
「この道を通って隣国まで行く」
 セントの指は南東へ進む。
「シュトゥーヘン」
 国境線を越え、指が止まった場所の文字を確かめるようにジンは呟いた。
「同盟国だ、事情を話せば、いや場合によっては話さなくても何とかなるだろ」
「そうだな、国が混乱しているので逃げてきた、とだけ」
「そこでセリス国内が落ち着くのを待つ」
「わかった」
 ジンが短く頷いた。胸の辺りに手を当てる。

「私が」
 姫が口を開いた。ジンとセントはそちらを向く。
「私がいくら変装しても、あなた方が私のことを『姫』と呼んでいたのでは意味がありません」
 二人は首肯する。
「ですから、名前でお呼びなさい。私の名前を、みなは知らないのでしょう?」
「名前は」

「キュア。私の名前は、キュア・コーカス・デイリア・セリス」

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