汝、風を斬れ
数年間日にさらされて、すっかり色あせてしまった肖像画がある。
黒く光沢のある軍服。しっかりとした体つきと少し厳しい目。その目は森の奥の色、短く刈られた髪は輝く緑。かつてはそんな色をしていた。
「父さん」
そう呟いた妻の肩を、ニコイはそっと抱いた。
「あなたがいれば、こんなくだらないこと、すぐにおわるのに……」
じきにセント達を追って、反乱兵が来るだろう。
この住み慣れた家を出なければなるまい。