汝、風を斬れ
「なぜ士官兵がここにいる」
 暗がりの中から声がした。そして青年の首筋に冷たい物が当てられる。

 この感触は、刃。

 青年は静かに、しかしはっきりと聞こえる声で名乗る。
「俺の名は、セント・ソーザ。無礼を詫びる。でも時間がない。聞こえているだろう、兵士が謀反を起こして、城を攻めているんだ。王族を捕らえようとしている。お前は姫様の近衛なんだろう、早く姫様を連れて逃げろ」
「ふ、」と暗がりにいた男は笑う。その耳には伝声機がなかった。
「お前も兵士。それを信じろと?」

「聞け、あいつらのほとんどは戦闘兵だ。とにかく、姫様を助けたいと思うなら……」
 セントはそこまで言って、耳を澄ませた。廊下に足音が一つ、二つ……。
「俺を信じろ。三階から四階までが、もう落とされたんだ。急げ、王様と王子は捕まった、そして…」

 伝声機は、先程からこの情報を伝えている。

「お后様が、殺された」
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