汝、風を斬れ
「そういや、お嬢ちゃん、姫様に似ているわねえ」
食卓についたキュアを見て、女主人が言う。一同ぎくりとするが、顔には出さない。第一、こんな一介の庶民が「姫様」の顔を知っているはずがない。
「ほらこれ」
女主人はがさがさと前掛けのポケットから一枚の紙を出す。今のキュアより少し幼い頃の姿絵だ。大量に刷られたのだろう、質は悪い。
「どうしたの、これ……」
セントが聞く。
「昨日の夜にねぇ、兵隊さんが来て置いていったのよ」
『我が国の姫君が逃亡した 有力情報提供者には金百五十万 身柄拘束者には金三百万進呈す 義軍』
――何が義軍だ。
「ほかに何か言ってた? 俺も三百万欲しいし」
セントは再び問い、手を伸ばしたジンに紙を渡す。
「兄ちゃんが格好良いからね、特別だよ?」
女主人は続け、セントは身を乗り出すように聞く。