汝、風を斬れ
「ふぅ」
 ドアが閉まり、誰ともなしに安堵の溜息。以下小声。
「私、ジンがああ出るとは思いもつかなかったわ」
「俺も」
「すみません……お前なんて……」
「いいのよ『兄さん』。今の髪の色、ジンに近いもの」
「なぁ、俺に謝罪なし?」
「何を」
「俺のこと『能なし』呼ばわりしただろ」
「腕は肯定したじゃないか」
 二人の掛け合いに、キュアがくすりと微笑む。

 小鳥が朝の光に遊んでいた。山肌を紅や黄色が覆っている。宿の近くの沢にも幾枚かの木の葉が流れて来る。
 キュアはサラからもらった小さな硝子瓶を手に、その沢の縁に立つ。コルクの蓋を開けて、中から取り出したのは一本の――自分の髪。切る前に、一本だけ取っておいたものだ。じっと見つめ、静かに手を離す。淡い青色の髪の毛は沢の流れに乗り、見えなくなった。
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