汝、風を斬れ
「この先の赤い扉! そこに姫がいる!」
 反乱兵が群れをなして廊下を駆ける。重い扉は難なく開く。どやどやと部屋に入ったが、毛足の長い絨毯がその音を吸収する。反乱兵は手にした燭台で辺りを照らすも、人影はない。既にもぬけの殻だった。

 セントと、王女を抱えた近衛は、城壁を背に八人の兵士に囲まれていた。八人とも剣を構えている。姫の部屋から垂れたロープが夜風に靡いていた。
「姫を渡せ」
 兵士の一人が呼び笛を吹いた。じきに応援が来る。セントは背中の剣を抜いた。
「おい、近衛」
 セントは返事を待たずに続ける。
「俺、こいつら倒して行くから。隙を見て、姫様しっかり持って逃げろ。早く!」
「倒すって」
「指をくわえて見ているのか? 姫様を抱えて、お前にはくわえる指も無いだろ」
 言っている間にも、一人の兵がセントに斬りかかってきた。が。セントが跳ぶほうが早い。
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