汝、風を斬れ
「どうしてこんなことになったの?」
「わからない……俺も兵士なのに、気付かなくて、止められなくて……ごめんな、俺達はお前らを護ってやるのが仕事なのに」
ルースは、この長身の男をじっと見上げる。不思議な髪の色。大勢の孤児と共に暮らしいて、緑色の髪は珍しくはない。でも、こんな髪の人はやっぱりセントだけだ。
「セント兄は、どうして反乱側にならなかったの?」
「いや、俺は兵士が反乱を起こすことさえ知らなかった。あの夜は、俺が城の警備に交替で入った途端に、兵舎の方から謀反のときの声が上がった。そして城に兵士がなだれ込んできたんだ」
ルースが唾を飲み込んだ。
「応戦しようにも相手は顔見知りだし、常駐と警備と、それ以外だ。何より数が違う」
「セント兄は強いんでしょ?」
「もしもお前が俺に刃を向けたら、俺は何も出来ないよ」
セントは少し寂しそうに笑う。そんなことしない、とルースが頬を膨らます