汝、風を斬れ

 月は体の上に煌々と輝く。日の下にあるときよりもより鮮やかに、髪が光る。輝く緑色。

 自分の身の心配だけすれば良い。一人の夜とは、こんなに気が楽だったのか。姫様の持つ華やかさ、遅くまで語り合えるジンの親しみ。楽しい夜を味わい過ぎたのだろうか。

 姫様。名も知らず、姿も見たことがない、正に雲の上の人だった。実際のその人は、噂以上に美しく噂以上にあどけない女性。

 いられるのなら、あの人のそばにいたかった。
 もっと大切に、ずっと守っていたかった。
 でも俺は、あなたを傷つけてしまうから。

 だから適当な理由なんかつけて。

「逃げたんだな……俺は……」

 秋の夜空は綺麗だが、一人で見上げるには大き過ぎる。
 セントは自らの手の甲に唇を当てた。それからその大きな手で顔を覆う。
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